04.ブランディングを1枚の図で説明してみた

ブランディングの全体像 ブランディング

「ブランディングって、一言で言うと何なのでしょうか」という質問を、時々いただきます。

実はこの質問を受けると、少々困ってしまうんです(笑)。その概念を一言で説明するのは、正直言ってなかなか困難だからです。

日米ともにブランド論が盛んとなった1990年代後半、かのD.A.アーカーは既に「ブランドは複雑なシステムであって、すっきりと何か一つのものと対応のつくことはめったにない」(BUILDING STRONG BRANDS:邦訳・ブランド優位の戦略 1997年7月 ダイヤモンド社)と看破しました。
以来、内外の多くの学者や研究者、経営者がブランドまたはブランディングについて定義しようと試みていますが、誰もが「これだ!」と認めるような、認識共有の決定打となる表現は出ていないように思います。

aakerの代表的著作
手元にあるアーカーの代表的2著作 だいぶ年季が入ってしまいました

それはある意味、当然のことです。なぜなら、ブランドを資産価値の観点から考える立場なら「エクイティ」に重きを置いた表現になるでしょうし、マーケティング系の研究者であれば競合との識別性、優位性を主軸にブランドをとらえようとするからです。顧客との紐帯、関係性構築こそがブランディングの胆だ、とする実務家も大勢います。

ブランド、あるいはブランディングが包含する領域は奥行きも範囲も広いため、様々な立場からのあらゆる角度のアプローチが可能です。どの見方、考え方も間違ってはおらず、逆に全体を端的に表現しようとすればするほど、抽象的な言い方にならざるを得なくなってきます。「ブランディングがわからない」という声が上がる原因のひとつが、ここにあります。

今回は、そこをあえて「一枚の図」で説明してみよう、という試みです。この記事のタイトル下、アイキャッチに掲載したのが、その「一枚」です。改めてここにも再度表示しておきましょう。

ブランディングの全体像

ブランドは、その中核に「理念=ブランドのマインド」の要素を必ず持っています。マインドはミッション、ビジョン、バリュー、あるいはパーパスやクレド、企業理念などとさまざまな言い方で呼ばれたり、場合によっては言語化されていないこともありますが、どんなブランドにも必ずこの核が存在します。

01.あなたのブランディングに不可欠な、たった一つのこと。の記事で解説したように、「自分たちはなぜこの事業、商品、サービスを世に問うているのか。何を信じ、何を重視してビジネスを展開するのか」という意思を核として、ビジネスのあり方を設計・実践し、顧客をはじめとする多様な関係社会(ステークホルダー)に伝えていくプロセス。これがブランディングの全体像です。

アーカーが「複雑なシステム」と表現したのは、このプロセスが多層かつ連環する仕組みの上に成り立っているからではないでしょうか。そのことを、この図を用いて説明していきましょう。

ブランドの発信者はマインド要素を中心にビジネスを設計します。
どんな商品・サービスを、どのような手段・業態で、どのくらいの価格帯で世に提供していくのか。それによりどう利益を上げていくのか、というビジネスモデルをつくるわけです。時としてこのビジネスモデルの構想が先にあり、マインドが後からついてくるケースもあります。その場合でもマインドはやはり飾り物ではなく、その企業やブランドの存在価値を象徴する「核」の役割を果たします。
この図ではビジネスモデルの構成要素をいわゆる「マーケティングの4P/4C」の視点でとらえました。

※マーケティングの4P/4C:もはや古典の部類に入るセオリーですが、いまだ十分説得力を持つ理論です。4Pは発信者側からの視座、4Cは受け手側の視座でビジネスを構想します。

4P4C
Product(商品・サービス)Customer value(価値)
Price(価格)Cost(費用や時間などのコスト)
Place(場所)Convenience(利便性)
  Promotion(プロモーション)  Communication(コミュニケーション)

ビジネスの構想は、実際に展開してはじめて現実のものとなります。売る商品を用意し、売る場所を設け、売る人を手配し、売るスタイルを決めていくのです。このとき、ブランドの核であるマインドは、視覚化(ビジュアル)と言語化・行動化(ビヘイビア)に翻訳されます。私たちはテレパシー能力を持つエスパーではないので、現実のコミュニケーションにおいてマインドを直接相手に伝えることはできません。そこで、パッケージや店舗のデザイン、商品の色や形、営業担当者や販売員の態度言動、ネーミングやキャッチフレーズといった表現に変換して、ブランドのマインドを伝えることになります。すなわち4Pと4Cの各要素を、マインドをベースにビジュアルとビヘイビアを通じて表現・伝達していくのです。

このプロセスは、対外部社会に限りません。むしろ、最初の段階では対内部、インナーブランディングにこそ重要です。自分たちがどのようなマインドでビジネスを営むのか、明確に、ブレなく意識するためにはまず社内、ブランドを発信する側の内部でそのことを共有しておく必要があります。インナーにおいてマインドに対する共感・共有が十分なされ、エンゲージメント(関係性構築)ができていれば、製造や販売、流通や広報、あるいは直接・間接の部門の別なく、「ブランドのあるべき姿」がしっかりと共有されるのです。

その次のステップは、いよいよ外部社会に対してブランドをコミュニケートしていくアウターブランディングです。コミュニケートの相手は、第一義的にはユーザーです。ユーザー予備軍、見込み客、購入客、リピーター、ファンといった紐帯の強さによって、伝えるべきメッセージは変わってきます。
また、伝えるための媒体もさまざまな種類があります。従来は電波や紙媒体を用いたマスのコミュニケーション(フィジカル/ノンデジタル)が中心でしたが、2000年代ではもはやデジタルメディアが主流です。今後の技術革新によって、さらに変化・発展していくことが予想されるので、ここに関しては常に注意が必要です。

そしてユーザー以外に、重要なステークホルダーが存在します。それが図の下部に示している「関係社会」です。ブランドによっても多少の違いはありますが、基本的には図に示したように、「取引先」「業界・同業」「出資者」「求職者」「地域社会」「行政・関係省庁」「報道メディア」などがそれにあたります。そうしたステークホルダーに対し、適切なタイミングで適切なメッセージを発信していくことが、アウターブランディングでは重要です。

そして、ブランドとしてのコミュニケーションがそれぞれのステークホルダーに伝わった後は、ブランドは発信者のコントロール(制御)から一旦解放されます。受け取った側がどのようにマインドとビジュアル、ビヘイビアに込められたメッセージを受け止め、印象を形成するかはステークホルダーの側に委ねられます。そしてその反応がプラスに作用した場合、賞賛、売上、リピート、拡散などのアクティブな方向に結実していきます。逆に、マイナスに作用すると非難、不買、継続拒否、悪評価の拡散といったネガティブな結果を招くことになります。

ブランドの発信者はこうした反応を堅実に受け止め、把握してPDCAのサイクルに乗せて、マインド・ビジュアル・ビヘイビアおよびビジネスモデルや4P・4Cを検証、再構築していかねばなりません。

今回は、ブランディングというものの全体の姿を、なんとか一枚の図で表現してみるという試みを行いました。冒頭に記したように、ブランディングは多様な側面を持ち、かつ日々発展と新たな解釈が加えられるテーマです。この図も必要に応じてバージョンアップしていきますので、ぜひ参考にしていただければ幸いです。

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